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  • 岡村友章

小さい子のいる親が急須を買いたくなるキョウイク的な話


近所に住んでいる妹と姪が、うちに遊びに来ました。

1歳の姪は急須でお茶を淹れたことがないようなので、先日ウチの仲間入りをした急須くんに登場いただくことに。

見るや否や、「こわい」と一言!

えっ!怖い? …たしかにそれは自然な反応かもしれません。見方によっては、急須くんは付喪神(つくもがみ)のようにも見えてくる。でも付喪神は、古い古い道具につくはずだし、急須くんはまだ10回くらいしかお茶を淹れたことがない新米です。

なにはともあれ、姪の手取り足取り、びびられながら一緒に番茶を淹れてみました。危なっかしい手つき。それでも新しいことにチャレンジしていることへの、彼女の心の浮きたちを何となく感じます。

それを見ていて思ったこと。

急須は、子どもが触る道具として、優れた特徴を備えているのです。

慣れた人でしたら、特に何も考えずにお茶を淹れることができますよね。慣れた人と、はじめて急須に触る人との間にある差を考えたのです。

たくさんありますよ。これを読めば、小さい子どもがいる親御さんは、ただちに5000円札を握りしめて近所の道具店へ駆け込むことでしょう。心してご覧くださいね。

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1. なんだこれ?

急須は左右非対称ですし、独特の形状をしていますね。子どもにとっては、なかなかヘンテコな造形に見えるのではないでしょうか。とりあえず触ってみたくなります。フタをあけたり、指をつっこんだり。

2. パリーン!

磁器のポットでも同じですが、急須は床に落としたり机に打ちつけたりしたら、欠けたり、まっぷたつに割れたりします。これは、子どもにはよいこと。それは、子どものまわりには安全なプラスチック製品ばかりがあふれているからです。確かにその場は安全ですが、「ものが割れる」というショッキングな体験をすることがありません。割れたらラッキーと思ってみましょう。不可逆性を感覚的に学ぶチャンスですし、場合によっては金継ぎに出すことで、器の生まれ変わりを目の当たりにすることも出来るのですから。職人さんの仕事もそこに生まれます。

3. あちっ!

熱湯を扱うのですから、ひっくり返したら火傷します。それに、湯を注いだあとの胴体部分は一見して熱いことが分かりませんが、触ってみればアツアツ。「水」にも冷たいのと熱いのがあることを知りますし、アツアツの胴を触ることで熱が伝導することを体感します。その「ちょっと熱くて怖かった」は、将来の火傷を予防することに繋がるでしょう。

4. こっちから、あっち。

茶袋や茶缶からサジを使って茶葉を取り出し、急須に移します。このとき、大人だってけっこう机に茶葉をこぼしますよね。体が何かに当たったり、手元がふらついていたりすると。そお~っと、こぼれないように、道具を使ってAからBへ移すこと。他のあらゆる場面でも応用のきく動作です。サジの使い方や、効率のよい取り出し方を感覚的に知ることになります。たとえば缶を立てたままでは、サジをいくら突っ込んでも茶葉が取れませんよね。だから、「斜めにすれば取れるぞ!」とやがて気が付くわけです。

5. 薄い!⇔おいしい!⇔苦い!

茶葉を投入して湯を注いだあと、待ちます。どれくらい投入して、どれくらい待つか。その感覚は大人でも慣れていないとわかりません。マニュアルにはいろいろと書いていますが、そんなものはアテになりません。あなたの好みを、どうして赤の他人が知っているのでしょうか?

子どもたちは、待ち時間が短すぎると薄くなり、長すぎると苦くて飲めないことを知ります。また、茶葉の量が少ないといくら待っても淡泊な味になり、多すぎるとたとえ短い蒸らし時間でもおいしくならないことを知ります。しかも、この感覚は一緒に飲む人数によっていかようにも変化します!淹れるたびに対応が変わるので、そこがおもしろさでもある。

この感じ、何かに似ていませんか?そう、カメラ。マニュアル撮影をする方ならわかると思いますが、絞りとシャッタースピードの関係とたいへんよく似ています。絞りは茶葉。シャッタースピードは蒸らし時間。

6. わたしのは薄くて、お母さんのはおいしい。お父さんの、めっちゃ苦い!

「回し注ぎ」をご存じですか。3つの湯呑に注ぐとき、1,2,3と注いだら、3,2,1と戻る。そしてまた1,2,3。こうすることで、注いでいる間にも蒸らしが進む茶の濃さを、なるべく均一にします。さもないと、お父さんのだけ苦くて、お父さん涙目…という残念だけど微笑ましくもある結果に。これも、笑い話を通じて「バランス」を知るきっかけになります。

7. 傾けるとどうなるか。

注ぐとき、急須を傾けます。その角度によってお茶の出てくる勢いが変わるのは当然なのですが、子どもにとってはそうではありません。いきなりグイっとやってしまう子もいれば、慎重な子もいるでしょう。ちょうどよい傾け方’を知ることで、角度の性質を知ります。それから、…おっと危ない!注ぎ口ばかり見ていると、フタが落ちることに気がまわりません。一度に、「ちょうどよい角度」と「フタを落とさないように手を添える」という2つの芸当をやらなければならない、なかなかハードルの高い難所です。しかもフタはちゃんと押さえないと、熱い。

8. やった!できた!

多少トチっても、最終的に湯呑みにお茶がちょっとでも入っていたら、ほめてあげましょう。そこに至るまでには、多数の関門があって、ひとつでも台無しになるとお茶は入らないのです。お茶を淹れるというのは、考えてみればそれなりの芸当だということがわかります。

子どもの自尊心を育むのが、急須です。

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どうですか?ほかにもいろいろとありそうですね。

さ、今すぐ道具店へ行きましょう。子どもと一緒に。

子どもが気に入るものを選ぶのが大切ですが、できれば「使いやすいもの」を。フタは胴体としっかり密着しており、注ぐときに尻漏れしないもの。尻漏れするかどうかは、ちゃんとしたお店なら確認させてくれます。

ここまでお読みいただいて、本当に有難うございます。長かった…


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