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  • 岡村友章

190歳 / 奈良 旧田原村


数年前、何気なく取り寄せた奈良の番茶がとてつもなくおいしく、そのあとしばらくして農家に電話をしてみたら何と茶業を廃していたことがありました。

あのお茶、また飲みたいな…と思いながら数年。その農家の近隣で同じようなタイプの番茶をつくっていることがわかり、早速電話。送っていただいたのは、親子番茶というもの。親子が安心して飲めるお茶という意味ではありません。一番茶の際には成長していなかった「遅れ芽」と、その下にある硬い親葉をまとめて摘み取ってしまうお茶です。「親葉」は若い芽に対しての表現。茶葉の親子だから、親子番茶。

これは会いにいかなければならないなということで、早速約束をとりつけて行ってきました。奈良県奈良市中ノ庄というところで、市町村合併の前には田原(たわら)という名の村でした。ここで、なんと5代にもわたる茶業を今も続けているのが竹西長士(ながひと)さん・多香子さんご夫妻です。

今回、長士さんは畑の草刈りに大忙しということで、ありがたくも多香子さんのお出迎えのうえ、竹西家の茶業についてたっぷりご案内していただけました。

先代まで化学肥料と農薬を使用する慣行栽培を行っていたそうです。しかし平成7年から無農薬有機栽培に転換し、そのうえ現在ではランチとカフェも楽しめる喫茶室を設けた「遊茶庵」をもご自宅横につくって頑張っておられます。平成7年といえば満田さんも無農薬有機に転換した年。

さてどうして無農薬に転換したのかをお尋ねしました。多香子さんのお話です。

「巷では、お茶をたくさん飲んで健康効果を得ようとはよくいうけれど、栽培では農薬を撒くやないですか。自分で撒いていると、やっぱり怖いんです。その一方で健康になろうといいながら売るのも、なんとなく気分が悪い。それに農薬を撒いた日は、酒のまわりがすごく早い。だから散布するときにはお酒を飲まないようにしていました。やっぱり農薬には何かあるな、いうことで、思い切って無農薬に転換したんです」

そのあとの苦労は、すでに多くの茶農家から聞いていますが、竹西さんのところではどうだったのでしょう。

「2年目までは、大丈夫やったんですよ。きっちり一番茶もとれましたけど、いま思うと肥料も農薬も残ってたんでしょう。変わったのは3年目です。一番茶が待てども出てこない。見てみれば、カメムシが大発生して新芽を全滅させとったんです。あらゆる虫を殺したあと、無農薬にしてから害虫が先に復活したんです。でも4年目になれば、テントウムシ、カマキリ、クモなどいわゆる益虫も増えてきました」

4年目から徐々に安定してきたという話は、満田さんが安定までに「10年かかった」という話と、ずいぶん違って聞こえます。そのことをお話するとこんなお返事でした。

「幸いこのあたりは標高が高く、茶園によりますけど海抜400~500mです。冷涼なのでもともと虫が出にくいということやと思います」なるほど。調べてみれば満田さんのところはおよそ200mでした。

とはいえ、無農薬だから売れたという訳ではなかったと竹西さん。

「JAでは、外見が綺麗で水色の青いお茶が求められました。だから見本に熱湯を注いで葉が開いたのを見る。ちょっと虫食いがあったり、それゆえ赤っぽくなった茶葉があると、買取価格は下がりました。だから自分たちで直接売っていく形態に徐々に移行しました。少しずつお客さんが増えて今に至ります。でも収量は落ちたし、虫にどうしてもやられてしまうところは出てくるし。今では一番茶のあとに親子番茶をとり、二番茶は少し紅茶にします。どうしてもそれ以降は虫食いが増えるので、とるのをやめました。でも全体的に畑は丈夫になったと思います。近隣でアカダニが大発生して大きな被害が出たとき、うちは大丈夫でした。」

うちの茶園が村史に載っている、とお見せくださいました。モノクロの写真に写っていたのは野生的な茶畑で、その時点でもすでに旧田原村では現存する最古の茶園であると紹介されています。

なんと現在では190年ほど経っているこの茶園は、もちろんすべて在来種。

古樹の茶園にご案内いただきました。葉の付き方や色味にグラデーションがあるのを見て取ることができると思いますが、ここに植わっている樹が実生の在来種で、すべて遺伝形質が異なっているためです。芽吹く速さ、葉の大きさ、色合い、収量、耐病性、そして香味などすべてがひとつひとつ異なっているのは、単一品種の茶園と決定的に異なります。(在来種なら必ずおいしいか?もちろんそうではありません)

昔はこの茶樹が3mほどの高さに仕立てられていたそうで、摘みごろの樹を選び脚立の上で手摘みしていたとか。さすがに現在はそこまですることはできないので、全体の様子をみながら、最適なタイミングで機械摘みをしておられます。

こちらが、この190年前からここにある古樹からとれた「親子番茶」です。

摘んでから一晩は工場で平置きし、香りを発揚させる萎凋(いちょう)という行程を経ておられます。この工程は現在の日本の緑茶ではほとんど顧みられることがありません。

この番茶、味は肥料たっぷりのお茶のようにはしませんが、突き抜けた清涼感は圧倒的です。とくに2煎、3煎と重ねるうちに前に出てくる「萎凋香(いちょうか)」とよばれる、野性的で胸がすくような香りは一度知ったら最後。

日本茶のほんとうのすごさのひとつを、きっと知ることになるでしょう。番茶には安くて低級のお茶と考えられている側面がありますが、それは試飲さえしていただけましたら、私が吹き飛ばしますのでご安心ください。

今回、竹西さんからは特別に、この古樹だけからとった親子番茶を託していただくことができました。テロワールという優雅な言葉がもてはやされている昨今ですが、なにはともあれ飲んでみて、感じてください。

そのようなものがあなたの眼前にやってくる巡りあわせを楽しみ、自然の不思議と生産者の気持ちに想いを馳せていただければ、私はとても嬉しいと思います。

竹西さんの親子番茶は、今後定番の番茶のひとつとして紹介予定。

早速のお披露目の機会は今週土曜日、大阪は梅田の Mumokuteki Osaka にて。

11月23日(土)11:00~「人と心をあたためる食卓のお茶」 @ Mumokuteki Osaka

https://www.facebook.com/events/503290710270139/

また、この古樹からつくられた希少な煎茶が若干だけ手元にあります。その煎茶は、こちらの催しにてお出ししますのでぜひお越しください。

12月7日(土)14:00-16:00(要予約)

「時間」という贅沢・「新」茶の世界 @ cafe+zakka+library ムーレック

http://muelek.com/?tid=2&mode=f3

多謝。