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  • 岡村友章

粉末緑茶と、fuminoteのお菓子の話


先日から当店でははじめて、微粉末加工を施した「粉末緑茶」の取り扱いをしています。これまでにも、荒茶や焙じ茶でお世話になっている満田さん(滋賀県日野町)からお届けいただいています。

まず、そもそも抹茶と何が違うのかをお話します。それから、このお茶を扱うようになった経緯、そして大切にしている「必然性」のことに触れたいと思います。

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抹茶と粉末緑茶の違い

抹茶は、摘み取りの前にお茶に遮光を施すことで、鮮やかな色味を持たせ、また濃厚な旨味成分を茶葉中に蓄積させることで製造される「碾茶(てんちゃ)」を挽いたものです。挽くのには、石臼や粉砕機が使われます。

一方で当店の粉末緑茶は、遮光を施さずに無農薬有機栽培された、満田さんの煎茶(一番茶)が原料です。抹茶のような冴えた緑ではなく少しくすんだ印象で、強い旨みを感じません。お茶の自然な苦味と渋味が特徴的です。とはいえ、2番茶を使用した強い渋味のある粉末緑茶と比較すると穏やかです。

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fuminote の横尾さんとの出会い

遡ること恐らく2年前の1月ごろ、山崎十日市に出店したときのこと。となりでお菓子を販売している女性がいらっしゃいました。それが fuminote の横尾文恵さんで、販売の合間に何気ないお話をしました。

派手な宣伝資材を何も置いておらず、小さく光るお菓子がころころと。それは小さい女の子が、大事なものをひとつずつちゃんと並べている様子を思わせました。このとき横尾さんは、奈良の阿部雅博さんが薪火でつくった釜炒り茶を寒さしのぎに、何煎もおかわりして飲んでくださったことを今でも覚えています。急須は常滑の水野陽景さんの。

当時横尾さんは、大阪・十三(じゅうそう)での喫茶室オープンにむけてご準備中。オープンしたらきっと行ってみようと思い、ついにお訪ねできたのがたしか夏の暑い日。妻とふたりで紅茶とお菓子を頂きました。

「これは、僕が知っているかぎり、いちばんおいしいお菓子だ」と、そのとき強烈な印象に残ったのです。この気持ちは今でも変わっていなくて、私は横尾さんのお菓子がとても好きです。ちゃんと向き合おうという気持ちにさせてくれる。

幸いそのときはお客さんがおらず、食べ終わったあとで横尾さんとしばらくお話を続けることが出来ました。喫茶室をオープンしたのに、横尾さんは晴れ晴れとした表情ではなくて、どちらかというと何かに納得いっていないという気配をぷんぷんまき散らしていました。

でも強調しておきたいのは、横尾さんの様子は決して「負」を感じるものではなくて、より良く自身の世界を築き世の中と関わっていくため、静かに闘っている職人のそれだったことです。西日を受けてフロアに座り、壁にもたれながらちょっと陰鬱とした感じだった横尾さんの姿が心に残りました。

fuminoteを後にした私は、横尾さんを雲の上の人だと思いました。とてもじゃないけれど、「一緒に仕事がしたい」なんて言えなかったのです。でも本当は、お茶を横尾さんに扱ってほしかった。この人ならきっと、自分にはできないお茶との向き合い方ができると感じたからです。

そのあと私は、その気持ちを隠しながら fuminoteのお菓子のことを色んな人に吹聴しました。「十三に、フミノテというとんでもないお菓子を出すところがある…」

イベント出店時に横尾さんと一緒になると、よく売れたら自分へのご褒美に彼女のお菓子を買って食べるのが楽しみになりました。帰宅途中の車、それは自分だけの閉鎖空間です。そこで食べるときのおいしさときたら。

イベント出店といえば、横尾さんと同時出店の機会を何度も提供してくださったのはコーヒースタンドと道具店 Dongree を営むドリーさん。彼が舵取りをしたイベントのいくつかで横尾さんと一緒になりました。(彼は現在、湖南市に移住して Dongree Books & Story Cafe のオープンにむけて準備中!)

ドリーさんとは、チョコレート専門店&カフェの Plus Chocolat を経営する宮原さんがご紹介くださったことで出会うことができたのです。こんなふうに、数珠繋ぎの縁。

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粉末緑茶の販売

今年の秋になって、十三から京都府大山崎町へお店を移転した横尾さんから、突然の一報が入りました。「お茶を使ったお菓子をつくりたい。おすすめはありますか」

胸が高鳴りました。なんと、向こうから声をかけてくださるなんて…。これはがんばらなくてはいけない!

このとき私は複数の抹茶を個人的に試しているところだったので、まずはそれを提供し、それぞれの違いをできるだけ細かくお伝えしました。横尾さんは理屈抜きの感覚で私が言おうとしていたことをつかみ取って下さったようで、クッキーとして焼いたときの適格なフィードバックを送ってくださいました。

粉末状のお茶にはいくらでも種類があります。私が個人的な想いからどうしても紹介しておきたいものがありました。それが、満田さんの粉末緑茶だったのです。

なぜ紹介したかったかというと…満田さんのお人柄と、お茶との向き合い方がきっと今回のクッキーづくりでいい働きをしてくれると思ったからです。満田さんのお茶は、くどい主張のない静かな風格で、なおかつ芯の強さを感じさせるまじめな香りと味わいがします。それはそのまま、満田さんがお茶を語る際の空気そのものなのです。

結果として、横尾さんは満田さんのお茶を使ったクッキーを正式に採用し販売してくださることになりました。多数の試作を重ねられ、その途中では私もテイスティングの機会を得ましたが、原材料の僅かな差が大きな結果をもたらすことを身をもって知った次第です。横尾さんは菓子作りの技法について多くを語りませんが、結果でもって静かに語っておられるなと、舌を巻きました。

完成した「緑茶のクッキー」は、素材の口当たりと香りが存分に活かされた、食べて楽しいお菓子です。 最初のひと噛みから感じられる粉末緑茶の凛とした香りに加えて、あとから追いかけてくるのは粗く粉砕した釜炒り茶の味わい。

これらが、クッキーという焼き菓子とこんなにも相性がよいものとは知りませんでした。大量の茶を使用し、例えば「特濃」とでも言いたくなるような味わいとは違い、あくまでもクッキーというお菓子の楽しみを引き立てる名脇役としてお茶が活かされています。その調和は絶妙というほかありません。

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必然性の話

横尾さんが粉末緑茶のいいところを余すところなくみせてくださったことで、私はこのお茶の販売を勇気をもって始めることができました。

「勇気を」というのには理由があって、これまで私はずっと粉末状のお茶の取り扱いに尻込みしてきたのです。まず私自身が、きちんと持ち味を発揮する方法をわかっていない。どうしても、無意識的に急須やヤカンで淹れるリーフタイプのお茶を優位に考えてしまうところがあって、そうしたお茶をしっかり紹介したかった。

そして、粉末茶は「お手軽でゴミが出ない、楽してお茶の栄養を得られる健康食品」というラベルを貼られていることがとても多い商品です。おいしいかどうかは問題ではなく、「とにかく楽して体にいいものを」は長い目で見て誰のためにもならないと私は考えています。

小さな小さな売り手である私が販売しなければならない理由は、どこにも無かったのです。私からでなくても、どこにでも売っています。

その意識は、横尾さんがこのお茶の魅力を教えてくれたことで一気に変わってしまいました。然るべき人のもとへ届けることが出来れば、お茶の魅力は何倍にも増すことを知ったのです。

そしてこのお茶は、人として心から信頼をよせている茶農家である満田さんのもの。私には、誰よりもうまく彼のお茶のよさを人さまにお話する自信があります。彼の長年の職人仕事を知っている者として、茶の職人・菓子の職人を引き合わせることが出来てとても嬉しく思っています。

自信が果たした仕事は、お茶をあっちからこっちに流すだけのコンベアではありません。通訳をしました。満田さんの言語はお茶。横尾さんの言語は菓子。両者の会話を誰しもにうまく伝わるようにするために、間に入りました。

原料の生産者、クッキーの製造者、それをつなぐ私、そしてもちろん食べる人…誰しもが豊かな気持ちになることのできるクッキーが地元から登場したことをとても嬉しく思います。

そこに、必然性があったと考えています。この仕事は自分でなければできなかったと、おこがましいけれど思っています。

ひとつ前に歩を進めた仕事となりました。満田さんと横尾さんはもちろんのこと、このお二人との出会いに至るには数えきれない巡り合わせがあります。そのおひとりおひとりにお礼を言うことはここではできないけれど、これからもよきお茶をお届けすることを約束して、お礼に替えたいと思います。

年の瀬に、最高の仕事でした。多謝。

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▶ 喫茶 fuminote (京都府大山崎町)

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