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  • 岡村友章

息をして生きている水無瀬


昨日は、水無瀬駅前の長谷川書店の軒先を使わせてもらって、お茶を手渡していました。

このところの自粛ムードのあおりを当店も受け止めて、3月はほぼ催し事がありません。そんななか少し久しぶりの野外販売。せっかくなので、ここ1年ほどで長谷川書店で購入した本のうちとても気に入っているものも一緒に並べました。

ふだんは「イベント会場」で販売しています。だから、駅の改札前で単独販売というのは初めてのことです。

12時すぎに販売をスタートするや否や、事態を心配してお茶を買いに来てくださった地元のお知り合い。びっくりするほどたくさん買い込んでくださって「出かけるから人にあげるねん」。

それだけでもう今日はそれなりに形になったな安心して、ちょっと座り込んでいると長谷川さんが中から出てくる。「ちょっと立ってみて。あ、立ったほうが話しかけやすいで。目線が同じになる」。

すると今度は私の娘が通う幼稚園に、ご自身もかつて娘さんを通わせたお母さん。自転車のカゴには近所のカフェで売っていたお弁当。これから家で食べるのだそうです。お弁当と一緒に…と番茶を連れて帰ってくださいました。

雨が降ったり止んだりして、時々晴れ間も見える日です。風はけっこう強くて、何度かお茶がパタパタひっくり返るのを直す。水曜の昼の水無瀬駅。水曜は商店街がお休みなのもあって、閑散としていますが、ぽつりぽつりと通りがかる人たちはみんな目線を寄越してくれます。そういえば肺炎騒ぎもあります。余計に人が少ないのでしょうか。しかし水無瀬駅にこれほど長いこと立って往来を眺めるのは、生まれ育った町なのに初めてのことです。いつもと違うのかどうかよくわかりません。

今度は、また同じ幼稚園に娘さんをいま通わせているという初対面のお母さん。豪快なお話に僕は圧倒されつつ、「焙じ茶あるの?」と興味を持ってくださる。その方が店内で用を済ませている間に焙じ茶を淹れて、飲んでもらおうと準備する。やがて出てこられたころには、ほど近いところで、「穴場」という期間限定のすてきな取り組みをしている主宰者ご夫婦がいらっしゃる。みなで焙じ茶をいただき、「これはおいしいな」と一同納得いただく。今だ!と、必死で満田さんの話をする。この人はすごいです。まじめで、どんなにか貴重なものを心を込めてつくっているか。こんな農家がいる滋賀県日野町の人はうらやましい…。この焙じ茶の製造方法は…云々かんぬん。

「じゃ、これふたつ!今からママ友たくさん集まるから宣伝しとくわ」と、お母さんは焙じ茶をふたつ買ってくださいました。穴場のご夫婦も三年番茶を連れて帰ってくださった。

そこへ妹が通りがかる。今日は寒空の下で販売と聞いて、おやつの差し入れを持ってきてくれた。人の心を、ときに読みすぎるくらいに思い遣ってしまう優しい妹が私にはいます。誇らしい。

ちょっと人のいない時間が続き、妹のくれたチョコレートをつまんでいると、近所の郵便局で働いて日頃お世話になっているおばちゃんが通りがかりました。「がんばってるー?」といつもどおりの淡々とした言葉がうれしい。この人はいつも、食べ物、それもかなりおいしいやつ、を自転車のカゴに入れていて、今日も何やらカゴから出してくださった。「これあげる。がんばっておいしいお茶を売ってや」。パンでした。

差し入れをたくさんもらい嬉しくてにやにやしている間にも、世話になっている人たちやら初対面の人やら、とにかくいろんな方が声をかけてくれる。私の生まれ育った島本町というところは、人をあまり無視しないところです。

「1年以上前に別なマーケットで会って以来チャンスがなく会えませんでした。今日はここにいてくださってよかった!」というお母さん。久しぶりだけど私もよく覚えている方でした。息子さんと長いことマーケット滞在を楽しんで、焚火にあたってくれていた方。

次に「私、佐賀からいつもお茶を送ってもらってんねん。あっちのお茶はおいしいから」というおばちゃん。「それやったら、もうこれぜひ飲んでください!釜炒りは関西にはほとんどないから…」と梶原さんの釜炒り茶をぶつける。くりくり曲がった釜炒りの形状をみて「そ、こういうやつ…それひとつちょうだい」と喜んでくださる。こういうとき、お茶の理屈はなんにもしなくていい。何も言わなくたって、その人のなかにばっちりとイメージが浮かんでいるのがわかるからです。

「僕はな、静岡に親戚があるから毎年送ってもらってんねん」という隣町の上牧から自転車で来たおっちゃん。「ミルでな、細かくして缶に溜めておくねん。それに毎朝お湯注いで、粉ごと飲んでしまう。体にいいやろ」。こういう入り込むスキのないライフスタイルを確立している人の話はおもしろいです。「急須で飲まないんですか」なんて絶対に言いません。だってこの人はすごく肌ツヤがよくて元気で、カッコイイ自転車を乗り回している。

夕暮れが迫りました。どこからか帰ってきたジャージ姿の高校生たち。自動販売機でジュースを買ってまたどこかへ行ってしまう。

中学生ふたり。「グルメシティ行こうや」と、休校の暇をもてあましています。

小学生ひとり。大事そうに本を数冊買っていく。

町がのんびりしています。新型肺炎を恐れるピリピリが不思議とありません。インターネットではあんなことになっているのに…。

子ども3人連れのお母さん。このところの政情のこととか、休校のこととか、魚の話とか。思いのたけを感情たっぷりに話してくれる。「家でがぶがぶ飲めるお茶ほしいです」といって、焙じ番茶をお持ち帰り。子どもたちもそれぞれ絵本を買ってもらって、よかったね。

「いつも、とらやまさんで買ってます。やっとお会いできた」というお姉さん。じっくり時間をかけて、発酵番茶を。こんなふうにして、長く会うことがなかったけれど、ずっと買ってくれていたという方とたくさん昨日はお会いすることができました。

いったいどれだけの、見えないお客さんに支えられているんだろう。

快活なお兄さん。「この紅茶、ほんとうにおいしいです!いつもほかで買ってます」といい、対馬紅茶を。横にいた方にも「ね、これほんとにおいしいんですよ。こんなにおいしいお茶、あんまりないんですよ」といって、僕なんかよりよほど必死に売り込んでくれる。

ほぼ無言でお茶を選ぶ、ちょっと怖い顔のお兄さん。「これ煎茶なんですか」と、日野の荒茶を手に取る。怖いけど必死で説明する。これは選別をわざとせず送ってもらっている煎茶。熱湯でいいからさっと淹れてください。満田さんという農家が作っていて、あ、よかったらこれ彼の話を書いているから読んでほしいです…。で、怖いお兄さんは荒茶を買ってくれた。怖い顔だけどお茶でほっこりしてくれているのだなと思うと、もうむちゃくちゃうれしい。

…こんな感じで、おしまいまで、普段会うことのない人たちをお会いすることが叶いました。駅前定点観測はとても楽しい時間でした。

3月はきびしい1か月になりそうです。でも不幸中の幸いは、こんな風にして町の人たちと交わる時間も持てたことです。いつも思うことの繰り返しですが、生かされています。

お茶がたくさん売れたから、子どもが欲しがっていた絵本を買って帰ると飛び上がって喜んでいました。するとお礼なのかどうか、「お父さん、きょうは頑張ったからこれあげる」と、4歳娘はどこからか摘んできた椿の花をプレゼントしてくれました。

いい一日でした。立ち寄ってくださった皆様、それから何より長谷川書店の長谷川さん、いつもありがとうございます。長谷川さん、きのうの片付けのときに重たい茶箱を持ってくれたから、腰を痛めてないかな。

感謝 .


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