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  • 岡村友章

旅のリポート / 阿蘇の青柳製釜炒り茶


先日の九州の旅。初日は宮崎県五ヶ瀬町へ。

今回のリポートは、県境をまたいだ熊本県阿蘇市のお話です。

お訪ねしたのは、阿蘇市波野(なみの)にお住まいの東 昌史さん。

チャーミングな笑顔の持ち主で、そのことば一つ一つにお茶に対する温かな気持ちやまじめさが伝わってくる人物です。政所の蓮ちゃんの朗らかさと、日野の満田さんの生真面目さが一緒になったような…

東さんは、同県の芦北にお住いの梶原さんから「岡村くんは、東さんのお茶が好きかもしれない」とご紹介いただきました。2017年5月のこと。すぐに連絡してお茶をとりよせ、ずばりおいしいお茶でした。釜炒り茶ならではの澄んだ香気に、萎凋と呼ばれる工程を経た際の華やかな香り。

やっと12月にお会いできる機会が巡ってきたのです。

それにしても九州で釜炒り茶の生産者を訪ねるのは大変。宮崎の五ヶ瀬のように自治体をあげて釜炒り茶をブランド化させているならまだしも、そのほかのところでは釜炒り茶を守る農家は点在していて、私の場合は佐賀の嬉野、熊本の八代、芦北、水俣、それに宮崎の五ヶ瀬。でもそのお陰さまで、九州各地の様々な表情を見ることができました。単に観光のための目線ではなく、お茶という視点で。

そこに新たに加わろうとしているのが、ここ阿蘇のお茶というわけです。

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東さんのお茶は全国的にも流通の少ない釜炒り茶であるだけでなく、その製法にも独特の特徴があります。

彼が使っているのは、金子鉄工所というすでに存在しない会社が製造した、通称「カネコ式」炒り葉機(下写真)。なんと60年もの間、入れ替えずメンテナンスしながら使用しています。

2台のカネコ式炒り葉機。フードはテント会社に依頼して新調するなど、丁寧にメンテナンスを繰り返す。

重油を熱源として、中で生の茶葉が炒られる仕組み。お茶自身が持つ水分が過熱されることを利用して酸化酵素を失活させます。(この工程を殺青といいます)

この機械は、八代市の船本さんが青柳製釜炒り茶をつくるとき使用するものと同じですが、船本さんはプロパンガスを熱源とするため火力に難がありコントロールが難しいと仰っていました。

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さて、そもそも東さんはどうして茶業に携わっているのでしょうか。

また、どうして釜炒り茶を(しかも効率の悪いカネコ式で)作り続けるのでしょうか。

質問をぶつけてみました。

東さんはもともと遠く離れた東京生まれ。しかし幼少のうちにお父さんを亡くされ、母方の実家である阿蘇に転居。当時から子どもの多くない地区で、小学校は複数の学年が一緒になって授業を受けるのが当たり前だったとか。

60年ほど前、東さんが生まれる前から母方のおじいさんはこの地で茶業を始めていましたが、いったん東さん自身は就職のため大阪へ出ます。なんと梅田の阪急32番街で飲食業に携わっていたそうです。そのせいか、東さんの言葉にはときどき関西弁が。「ほんまに」なんて熊本で聞くとは思いませんでした。

茶業は祖父からお母さんが継ぎ、やがて東さん自身もここ阿蘇に帰り、お茶と向き合う暮らしに入ったというわけです。

茶業はもともと、「委託加工」がメインでした。

お茶の樹はあっても加工設備のない周辺の住民が持ち込む生葉を預かり、彼らの代わりに仕上げて返すのです。ここ波野は大分県との県境がすぐ近くということもあり、現在でも大分からの委託を受注しています。

刈り取った生の葉を一定時間寝かせ、香りを引き出す「萎凋」を行う箱。来年の新茶をひっそりと待っています。

そんな創業以来の委託加工だけでなく、自身のブランドを立ち上げて小売販売や卸も始めようと活動を開始した東さん。

「お茶がたくさん並んでいても、どれも同じようものだと面白くない。記憶に残るお茶をつくりたい」と考える東さんにとって、代々使用してきた釜などの加工ラインを使って釜炒り茶をつくることは、むしろ独自性を打ち出すためには格好の選択でした。

「たとえば10人を集めて、全く同じ原料・同じ釜を使ったとしても、仕上がりは十人十色。全部ばらばらの仕上がりになって、それがおもしろいのです。祖父も、カネコ式より効率のよい「連続式」や、煎茶と釜炒り茶の中間である「蒸し製玉緑茶」をつくるよう各方面から助言されたのではないかと思いますが、祖父は頑なに機械を変えませんでした」と東さん。

伝統的なスタイルを守るものが少なくなるなか、平成29年の世に強烈な個性を放つお茶と出会えたのは、東さんのおじいさんの想いと、それを完全に受け継いでいる東さん自身のおかげなのでした。

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そんな東さんが原料に使う茶葉は、いずれも無農薬。そもそも阿蘇は標高が高く冷涼なため、新茶の時期は遅くても病害虫が少ないのだそうです。

また肥料や堆肥には化学的に合成されたものを使いません。近年では肥料そのものの量もかなり減らして、茶樹自身が生み出す香りの発揚を促すよう工夫しています。

堆肥には、阿蘇地方の山野草を堆肥化させたもの等を。ここには東さん独特の感覚が。

つまり、海に近いところに住む人は、海のカキ殻などを使いますが、阿蘇は山だから海のものは使わないのです。そのほうが土地に合うのではないかと東さんは考えていて、地産地消の考えにも寄り添う方法論です。

さらに、お茶づくりにおいてどうしても出てしまう商品にならないような部分は、地元特産の「あか牛」の飼料にまわします。牛が口にするものも、できるだけ地元のものを使いたいという農家が友人で、その気持ちにお茶で応えています。

全国どこへ行っても均一な味が楽しめる現代。そんな中において東さんのような伝統的製法を守る方の存在はとっても頼もしいものですし、また地域性を大切にし関連業者と協力し合う姿には心を打たれるものがあります。

彼のお茶は、とってもおいしい。単においしいとか香りがよいというグルメ的な楽しみ方ではなくて、彼がお茶に対して抱いている世界観をも味わってもらいたいなと考えています。入荷しましたらお知らせしますので、しばらくお待ちください。

目下のところ、彼は所有する山中に祖父が植えたあと長らく放置している樹の活用や、在来種のお茶の潜在的な価値、そして嗜好性のある品種茶の楽しみなど、様々な角度から釜炒り茶の可能性を模索しています。

私もその模様をしっかりお伝えしていきたいと考えています。お楽しみに!

#阿蘇東さん #釜炒り茶