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  • 岡村 友章

満田製茶 10日目 7月1日 / 盗み

早いもので、日野での生活は10日目になった。


仕事からあがってアパートへ向かうときの風が爽やかだ。単に汗が乾くからではなく、茶の世界のうち今まで見えていなかった部分を無数に目撃しているからだと思う。二足歩行を覚えた子どもの目線のように、住んでいる世界は同じでも見渡せる広さがずいぶんと違って感じられる。


今日の仕事

・委託加工 緑茶柳仕立て

・自社販売 煎茶の再製加工

・仕入れた茶の冷蔵倉庫移送

・滋賀県茶業試験場を訪問


柳仕立ての「柳」とは、煎茶製造のうちいくつかの工程をわざと省いたもの。茶葉サイズ別の選別や切断加工を最小限にし、火入れ乾燥をする。比較的安価で販売されていることが多いものの、決して侮れない。値段と、味の良し悪しは必ずしも連動していない。

実は僕が販売させてもらっている「日野荒茶」も、柳仕立てのお茶だ。彼が自園で育てている在来種を、必要最低限の加工だけして送ってもらっている。どうして手数の多い煎茶にしてもらわないのかというと、柳のほうがおいしいと僕は思っているからだ。市場価値としては柳だと低く見積もられてしまうが、内質は必ずしもそうとは限らない。さんざん試して達した結論だから、満田さんの茶に関しては、自負がある。


それから煎茶の再製加工。再製とは、荒茶まで製造の終わっている茶を、仕上げていく様々な工程のことをいう。形状選別、切断、火入れ、唐箕、色彩選別、合組…。いろいろある。

僕はこれらについてテキストでは習った。そしてそれをもとに日本茶インストラクターの資格も取得した。だけれども、ここ満田製茶で久樹さんの指示のもと一緒に進めていく各工程は、完全に真新しい体験だ。工程を彩る技術を目の当たりにすることが出来るし、茶師としての彼の経験則や感性を、真横で話を聞きながら教えてもらえるのだから。これ以上の学校が、今の僕にとってあるだろうか。

「工場での仕事の半分は、掃除やで」と彼は言って、ブロワー、掃除機、ほうき、ちりとりで何度も床を掃き清める。テキストに載っていないことに費やす時間がものすごく多い。

頭も使うけれど、体で覚えていく。その感覚は、ふだん頭でっかちなことばかり考える自分にとって有難い。

「やっぱり体は動かして、しっかり働かなあかんねん。働かざるもの食うべからずやねん」と彼が言えば、やけに説得力があり反論の余地もない。(もちろん彼は、どんな嫌なことであっても食いしばって盲目的に頑張れと言っているのではない)


それから冷蔵倉庫にたくさんのお茶を移送して体を動かす。細身の自分ではあっても、体のどこをどう使えば少しでも楽にできるかを、久樹さんの動き方を見ながらひたすらに盗もうとするばかりだ。少しずつ分業のできる場面も出てきて、うれしい。


あまりにもやることが多いので、彼もすべてを細かく教えてくれるわけではない。だからそこは見て勝手に真似ている。


盗むのは楽しい。それで彼が何も言わなければ、まあそれでええよ、と言ってくれているのと同じだからだ。



今日は滋賀県の茶業試験場を途中で訪ねることもできた。試験場というのは栽培と製造についてトライアンドエラーを繰り返し、実地に反映させることのできる技術を開発している公的機関だ。品種改良や農薬の効力検査などもこうした場所で行っている。


久樹さんは、「民」で働く存在として、「官」の相手に対して思うところを言葉を選びつつしっかり伝えていた。


「昔はな、僕は言われっぱなしやってん。そやけどあるときから気にならんようになってきて、だんだんものを言うようになった。やましいことなんかないんやもん。それやったら、どう思われたってええやろ?」






今日も加工場で何度も「どれがええ茶やと思う」と聞かれた。最初びびって答えていたが、だんだんと楽しくなってくる。

そして分かってきたのだけれど、久樹さんはとても優しい茶の見方をしている。甘く鑑定しているのではなくて、その茶のいいところを見極めて、どうすれば活用できるかを考えている。

ある茶の火入れと選別が終わって仕上がったものを見て、彼はそれを見せに来た。「これ、◯◯さんの。最初どうかなと思ったけんど、こうして見てみると、なかなか男らしい茶やと思わん?」


それからも「乙なもんや。なかなか男らしい」とぶつぶつ言っている。「乙な、男らしい茶」って、どんなだと思いますか?おもしろいでしょう。

明日もひと働きしたら、いったん地元に帰る。娘の幼稚園の参観があるからだ。

しばらくぶりに家族に会える。全員抱きしめる。

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