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  • 岡村 友章

満田製茶 14日目 7月8日 / コアなもの

今日は満田製茶のお客さんである県内の小売屋さんのところへ、委託加工を受け付けて仕上がったものを届けるところから始まった。


「岡村くん、滋賀にもお茶を売りに来てるということやけど、こういうお店もあるのやから、ある程度わきまえてふるまうように」

「あはは、そんな…」

お店の方が笑う。


お茶を淹れてくださった。楽しい話に華が咲いたので、ついついその方は急須に湯を入れたまま、長いことそのままにされた。


僕はそういうお茶が理屈抜きに好きだ。なんだか思い出になるから。


「ああいうお茶は、なんだかいいですよね」と帰りの車で久樹さんに言う。

「ウム」といった顔をして彼は頷いた。


どういうお茶が本当にいいもので、どういうお茶がいいものではないのかという話を車内でする。比較するために、家電製品、調味料、靴、鞄などたくさんの品物が引き合いに出てくる。


「岡村くんの扱うお茶は、ちょっとコアなものなんよ」

確かにそうかもしれない。作っている人のそんなにいない在来種、煎茶になる直前の加工で止めた柳仕立ての緑茶、煎茶に押されてほとんど残っていない釜炒り茶、地方番茶、超小ロット生産の紅茶…


それらを作っている人、もちろん久樹さんも含めてみんなの顔を思い出す。

「流通量からすればコアかもしれませんよね。物珍しいと思います。でも僕、今は『コア』に見えているかもしれないものが、ほんとうのいいお茶なんだと思って、そういうお茶がきちんと残ってほしくて、扱っています。『コア』なものの中に、ほんものがあると思います」

こういうところが、久樹さんをして「危なっかしいし、ちゃんと一般的な茶を勉強して目を養うべき」と思わせるところなのだ。


一方で久樹さんは、僕のそういう考え方を決して否定はしない。なぜなら彼が自園で作っているものこそ、ある意味でかなりコアなものだからだ。問屋として市場を鋭く見渡す目を持っている人。その人が自園で作っているものこそ、市場価値を意識しないもの。彼はそういうものを飲みたいのだ。


飲んでくれた人たちがどんな反応をこれまでにしてくれたか、僕は少なからず見てきた。だから、市場的にはコアなものでも、ほんものだと信じている。


「子どもが緑茶は飲まなかったのに、これはガブガブ飲むんです」


これ以上の評価はないのではないだろうか。


しかし、ここに滞在している間は、その考えに固執していては何の意味もない。そのことは昨日の記事で書いたとおりだ。


「岡村くんがいい感性をもってお茶をみているのは分かっている。でも、扱っているものの特性を、その周辺のお茶をよく知ることで、もっと見極められるようになるべき」

帰ってからは全身粉まみれになりながらお茶の再製加工だ。

網を通して大きさ別に選り分けた茶葉を唐箕にかけたり、色彩選別機にかけたりして仕上げていく。

唐箕といっても昔ながらの風で飛ばすやつではない。満田製茶にあるのは、上方から空気を吸い上げることで軽いものを選別する唐箕だ。

それを色彩選別機にかける。少量ずつ自動的に投入される茶葉のうち、茎などを選り分ける。

そして火入れ乾燥機にかける。高温に熱した空気を通過させることで水分率を減少させ、香味を向上させる。

合間に機械を掃除する。このときに粉がたくさん飛ぶので、粉まみれになる。


細かいことがたくさんある。

「ひとつひとつのことに意味がある」

昨日、久樹さんはそう言った。

なんでそうするのか?どうして?いちいち考えていると頭が疲れてくるけれど、その負荷が必要なときなのだと思う。

考えてもわからんものは全部聞く。全部、ちゃんと答えてもらえる。働きながら勉強ができる。こんな環境があるだろうか…



休憩を挟んで久樹さんは焙じ茶の加工に取りかかった。お客さんからのオーダーに応えるのだ。


「お客さんによって好みが違うねん。いろいろオーダーがある」

「今回のお客さん、炒り具合について何と言うてるんですか」

「普通にって」

「普通?それ、いちばん難しくないですか?何が普通かって、人によって違うやないですか」

「そやねん」

少しだけ一緒に作業させてもらいつつ、焙煎機についてわからないところを質問しまくる。楽しい。理屈と感覚の融合した彼の作業の仕方は独創的だ。


「あれ、煙が青いやろ」

「青い?」

「そう。あれが白くなってきたらそろそろやねん」

「青から白?…温度計やタイマーはどう使うんですか」

「目安。だってこんな機械は、日によってコンディションが違うから。葉の色、煙、においとか、それぞれで考えるねん。で、これ(直火式焙煎機)も難しいけんど、あっち(砂炒り焙煎機)はもっと難しい。焙じ茶はタイミングなんよ。ほんで、失敗したら原料がパーになる。高価な原料を使うときは気ぃ遣うから大変やねん。炒り方やって、うちはちょっと独特やと思うよ」


以前にも砂炒り焙煎を見学したとき、彼は「焙じ茶の製造技術は、ちょっと自信もってやってる」と言っていた。迷いのない作業の連続に舌を巻く。後からついて回って、彼が「まだ」とか「もうええか」とか言っているときの茶葉を確認する。


焙じ茶は比較的安価であることが多い。しかし一度でいいから満田製茶の製造風景を見てほしい。たいへんなリスクを伴う難しいお茶であることがわかるのではないかと思う。

「やっと調子が出てきよった」といって、彼は残りの焙煎にとりかかった。見た目に何も変わらない焙煎機のどのへんが「調子いい」のか、僕には皆目わからない。

息子さんが出てきた。なんでも通販で買ったものに、出品者から昔の雑誌がおまけでついてきたのだといって父に見せに来た。平成3年に出版された車の雑誌で、それを一緒に眺める様子はどっからどう見ても親子だった。当たり前だけど。


粉まみれの日のシャワーはこの上なく気持ちがいい。今日は日野の地酒を少しだけ飲んで、本を読みながら眠気を待とう。

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