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  • 岡村 友章

満田製茶 9日目 6月30日 / 優しすぎる

今日の仕事

・ひみつ

・委託加工 荒茶 柳仕立て

・委託加工 煎茶 仕上げ

・落札した茶の受け取り


今日の一日は、言わないほうがいいことからスタートした。それは特別な計らいでもあるので、詳しいことは書かないでおきたい。


そこで僕は、初対面となる茶の事業者とたくさん出会った。頭を下げっぱなしだ。後ろから声が聞こえてくる。ひそひそ声でも分かる。僕は、人が自分のことを言っているとき、異常なくらいそちらに神経をもっていかれる。

「満田さんとこの、あの細い人、誰や」

久樹さんは僕の正体をきちんと説明してくれていた。僕はしゃしゃり出るのも良くないと思い、黙って引き下がっていた。


ここでは体格でまず人を判断されるきらいがある。僕は細い。中学は剣道、高校はテニスをしていたけれど、以降は運動嫌いだし、筋肉がそんなに無くてもどうにかなる都会暮らしだ。


頭でっかちに考え気味の日々を後悔する。ここでは力のない人間はどうも見くびられてしまうのだ。

優雅にみえるお茶という世界も、はじめはこのような空気のなかを通り抜けている。ガソリンと茶埃と汗にまみれ、むさ苦しくも爽やかな、農業のリアルな現場だ。そしてその世界は、相場と駆け引きのなかで商品価値が決定していく非常にシビアなものでもある。


産業として茶が存続しているのは、そのような現場で問屋さんたちが生産者と一般のお客さんの間に入ってくれているからだ。彼らの感性と商魂が、生産者たちの渾身の作の市場価値を決める。ときにそれは、その茶の味や香りとは別なところで決定されることがあることをも今日は知りえた。


動くお茶の量が違う。そのスケールのなかで、「にほんちゃギャラリーおかむら」などは、数字のうえではミジンコみたいなものだ。


「岡村くんがやろうとしていることをハッキリさせていくためにも、市場や相場という世界が主流であることを知ってもらい、どのようなものが市場価値を持つのかを判断できる目を持ってほしいねん」と久樹さんは何度も言う。

「岡村くんはええ意味で頑固やしそれはええねんけど、もうちょっとシビアなものの見方をして、商売としてきちっとやっていくことも必要なのよ。岡村くんが直でお茶を買ってる農家はみんな優しいんよ。もうちょっと広く見なあかん。それに、直ではない買い方というのも知っといたほうがいい。実際にやらんにしても」。


外出先から2人で戻ると、さっそくいくつかの茶葉を並べる久樹さん。


「どれがええ茶やと思う」

日に一回はこのテストを受ける。


「ええ茶っていうのは、僕の好みのことですか。それとも市場価値のことですか」

「市場」

「それやったら、これ」

「骨太で色味にも深さがあるし。においにも力がある。で、こっちは水くさい感じがする。乾燥が甘いんと違いますか」

「正解やね」


今日は雨も強まって、外の草取りができない。雨ということは、草がぼうぼうに伸びてくるということだ。次の晴れの日は大変なことになるだろう。



外で仕事ができないので、加工場で作業をする。まずは、緑茶の「柳仕立て」という委託加工をする。使う機械はみな大型で、掃除にはじまり掃除に終わる。違うロットのものが混入しないように気をつけないといけない。


生産者から預かった荒茶を大きさによって選別し、大きすぎるものは切断機を通すことでサイズを均す。

サイズ別に選別された茶葉を乾燥機(上写真手前)に通す。ここで茶葉の水分量を減らすことで長期保存のできる状態にして、なおかつ香味の発揚を促すことができる。


火の入った茶葉は静電気を利用した選別機を通る。茎が静電気で吸着され、分けられる。


最後に全体を均一にするため合組機を使って混ぜ合わせる。



さらに、煎茶の仕上げ加工にもとりかかる。柳仕立てよりもより工程の多い選別を経て、切断、火入れ、茎選別、合組。これも細かい掃除やちょっとした機械の調整があり、手数が多い。


選別に使う篩い(ふるい)も、原料の状態によって久樹さんはかなり時間をかけて悩んでいた。そのやり方を誤ると、原料に対する歩留りが非常に悪くなってしまう。預かったものをいちばんよい方法で仕上げてお客さんに返す、責任の大きな仕事だ。


僕は細かい調整なんてまだできないから、その周辺の細々としたことで久樹さんのアシスタントにまわる。でも、テキストで学ぶ製茶方法のリアルをみ続けられるのは楽しい。


ときどき後ろから久樹さんの動き方をみて、主体的に判断して動けることが無いかを探す。


ほんの少しずつ、工場での動き方を体で覚えていく。子どもの成長と自信にも似た感覚だ。寝返りがうてる。ハイハイができる。つかまり立ち。歩行。


お父さんも作業に入っていたので、その作業もフォローする。お父さんはもう80歳を超えているが、とてもそうは見えない。

かつてはおじいさんも居り、さらには雇い入れたスタッフもいたから、賑やかだったそうだ。その当時は市場も非常に活気があり、お茶の市場価格は今よりもずっとずっと高かった。

乾燥機のガス火ゆえ、加工場の気温がどんどん上がって汗が止まらない。



今日の仕上げに、満田製茶が落札した茶葉を集荷場まで取りにいく。トラックで向かい、久樹さんがひょいひょいと運び上げてくる30キロ入りの袋を荷台に並べていく。


体を一気に使う瞬間だ。腕力よりも、腰や脚の使い方のほうがひょっとすると大事かもしれないと思いながら作業する。


17時となり、終業。久樹さんもどこか一息ついた雰囲気になり、スーパーカブを見にくる。久樹さんはカブが気になるのだ。

「ええな。何速あんの」

「4速。以前のカブと違ってセルでスタートするんで、蹴らんでもええんです。どうです1台。20万円と少し」

「僕は900ccくらいのが気になるんよな」

「そんなん乗って、久樹さん事故しはらへんか怖いなあ。死なんといてくださいよ。ぜったいに困ります」

「へへへ。言うてるだけで、買わへんよ」

「ちょっと乗ります?」

「ええわ。新車こかして傷つけたら、えらいことやん」

「わはは。そしたらお疲れ様でした。また明日です。ありがとうございました」

「おおきに。明日もよろしく」


雨が激しく降る中をスーパーへ向かい、足らない食材を買って帰る。かんたんな自炊はけっこう楽しい。


本を一冊買ったけれど、今日も疲れた。読めるかな。

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