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  • 岡村 友章

黙って作業する男


この機会に取引のある農家をご紹介しています。


北田さん、満田さんの次に農園にお邪魔してお話をしたのは、奈良県の山添村で営農している栢下(かやした)裕規さん・江里さん、そして娘のSちゃん。当店では「天日干し釜炒り茶」「天日干し釜炒り晩茶」「茶花の茶」の生産者です。


このご一家とはもともと茶畑を訪問するずっと前にお会いしていました。彼らは、京都で毎年開催されているお茶のイベント「吉田山大茶会」の出店者。まだ私がお茶屋になるなんて思ってもいないけれど興味は大いにあった時期、この催しに足を運んでいました。


生産者が直接販売していることも多く、みなさんそれぞれに趣向を凝らしたブースを設けておられるのですが、なかでもひと際飾り気がなく、いい意味でがつがつしていないブースがありました。そこにいたのが栢下さん。


さっぱりと香りよく飲めるお茶が好きな私は彼らの作っている天日干しのお茶をとても気に入りました。そのお茶のキャラクターは、今でも思うのですが、栢下家の帯びている空気とまるで同じです。とくに裕規さんの。


栢下家は大阪から奈良に越し、民家と茶畑を借りてお茶と野菜を作っていました。天日干し釜炒り茶は、もともと熊野地方で「熊野番茶」の名で親しまれてきた地方独特のお茶で、栢下さんが和歌山の「師匠」のもとで教えを乞い、奈良でその手法を実践しています。


このお茶は刈った葉をしばらく寝かせてから釜で炒ります。その茶葉を揉みこむことで水分を出し、またその後の化学変化を促します。揉んだ葉はビニールハウスに敷き詰められたシートの上に薄く広げられて太陽の光をたっぷり浴びます。すると、みるみるうちに葉の酸化発酵が進み、数分のうちに緑色が褐色へと変化します。それを再度揉んで、干し、焙煎を経て完成するのが「天日干し釜炒り茶」です。


はじめて飲む方にとっても、どこか記憶の奥底にあったり、あるいは体験すらしたことのない里山の空気が持っている独特の郷愁の気持ちを呼び起こしてくれるお茶です。


栢下家のSちゃん(右)と我が家の娘(左)です。3年前の水遊び。小さいうちから娘と遊んでくれていて、それを見るのも楽しみです。


さて裕規さんは寡黙な人です。訪ねて行ってもあまり喋らないし、気が付いたら家から一人だけ畑に行って作業をしていたり、工場の修繕をしていたりします。


反面、パートナーの江里さんはお喋り好き。いつも訪ねたときには里山のめぐみをたくさん用意して迎えてくださいます。Sちゃんも昨年の秋ごろに会ったときは、ずーっとお喋りして、元気をあたりにまき散らす頼もしさ。こちらも元気をもらいます。


この一家を見ていると、家族の営みとしていつも胸の温まる思いがします。どうか元気でいつまでもいてほしいという思いから、(そしてお茶ももちろんおいしいから!)ずっと応援したいという気持ちが沸いてきます。同世代ですし!政所の山形さんも、そうですね。


さて黙って作業する男である裕規さんですが、ことお茶の議論となるとちょっと目が変わって、たくさんお喋りしてくれます。ふだんはそんなに表に出ない探求心の並々ならぬ強さを感じずにはおれませんし、なにより彼らのラインナップは当初より何倍にも増えているところからも伺えます。


お茶はもとより、どんな人が作っているのかを大切にしたいという気持ちをいつも振り返らせてくれる人たち。売ること、利益をあげることは大切ではあります。でも、まずはこのように素敵な一家と縁のあることを個人として喜び、堪能することを私は優先します。その喜びを伝え、続けていくために、私はお茶を売るという形をとっているのだと思います。


いつもならばこの時期は、新茶の収穫作業の応援をしたくて気持ちがムズムズしている頃です。でも今年はどこの産地にも、少なくとも5月は行かないと思います。新たな経験や会話がもたらしてくれる精神のアップデートを行えないのは残念。しかし一方で、いま現在自分に与えられている縁や経験を振り返り、祈るような気持ちで茶農家たちを遠くから思うことができることは、起業から3年経ったいま意味のあるひとときではないかなと感じています。


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山添 天日干し釜炒り茶 2018

奈良県 山添村 栢下さん

無農薬 無肥料

750円 50g


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