- 岡村友章
野点 01 / 17.10.09

スケジュール帳を眺めてみると、もう10月で一日まるっと空いている日がひとつも無いことに気が付きました。きょうは午前中だけ空いている。
そうだ、野点しよう。
という訳で、何か楽しいことが起こるかな?そうでもないかな?
ちょっとワクワク。小さなお茶道具を携え近くの公園へ行きました。
2歳の娘も一緒です。

そもそも私には茶道の経験が全くないし、淹茶も自己流です。
だからどんなふうにやればいいかよくわかりません。結局自己流です。
とりあえず「お茶どうぞ」と板に書いてみました。
唐突な感じがします。
いわゆる「野点」の様子と比べてすごく質素なのですが、
ここの景色が好きで、それに溶け込みたいから。緋毛氈も赤い傘も着物も、なんにも無し。
(そもそも持ってない!)
さて、野点なのだからお茶を淹れないと始まりません。
誰か来るかもしれないし、遠目に「怪しいな」と思われてしまうだけかもしれません。

梶原さん(熊本・芦北町)のお茶を淹れてみました。

うーんきれいだなあ。手摘みのお茶なんです。
摘まれ、炒られ、揉まれ、乾燥して。
そうして久方ぶりに水の力で体を伸ばしたお茶です。
「ここどこですか?」って言ってるようです。ようこそ。ここはよいとこ、島本町です。
娘とカンパイしました。あーおいしい。誰も来なくてもいいや。空気も気持ちいいし。
…
...
そうしたら。
「なにしてるんですか?」と、いきなり声をかけられました。
お父さんと、小学生4年生くらいの男の子と、1年生くらいの女の子。
「え、えーとお茶を淹れてます。広瀬に住んでるお茶屋でして。
こっちは娘。よかったら、飲みますか?」
もっと堂々と答えればいいのに。
お茶屋であることなんか、言わなくてもよかったのに。
...
話を聞いてみると、12月ごろ毎年恒例の町内マラソン大会にむけて、
娘さんが走れるかどうか試しに3人でランニングしてたのだそうです。
息子くんのほうはすでに何度か出場している様子。
「娘が3キロ走れるかなーと思ったけど、無理そうでした。はは」とお父さん。
なにはともあれ楽しそう。
「お茶…うーん、苦いけど、おいしいな」って息子くん。ありがとう。
一方そのころお母さんはきっと家でのんびり。
コーヒーとおやつで一服かな。テレビ観ながらポテチかも。
何にしても、いい時間ですね。
...
ものの2,3分の会話でしたが、野点をやってみなければ
知ることもなかった、名前も知らない親子のこと。
やってよかったなと思います。
それにこの東大寺公園は、私が小中学生のころ通学路にしていた道沿いにあります。
だからいつもここで遊んでいました。よく転んでケガしたものです。
そんな場所でお茶を淹れる。
20年くらい前にここで走り回った自分の姿と現在を重ねながら
もう帰ってこない昔の暮らしを思い出しました。
好きな子とその日一言でも会話ができるかどうか、そんなことくらいしか悩みはなかった。
20年経って、こんなふうに生活しているなんて。
タイムマシンがあれば20年前の自分に言うのに。
「おまえ。20年したら、サラリーマン辞めてお茶屋になってな、
ここで知らん人にお茶を淹れるんやぞ。…なかなか楽しいもんや」
当時の私なら、(今もそうだけど)ビビリなので、そそくさと逃げだしたと思います。
...
その後は日照りがとても強くなり、お茶どころではなくなってしまいました。
川に草を投げ入れるというよくわからない遊びを娘としてみたあと、
帰宅してカレーを頬張りました。
また、過ごしやすい季節のうちに、野点しようと思います。
お茶というより、どんな人と会えるかなあという楽しみがありますね。
だからコーヒーもOKなわけです。
「お茶屋が本気で淹れる野点コーヒー」って?需要ないか。
それではまた!