© 2015-2020 by にほんちゃギャラリーおかむら

検索
  • 岡村 友章

埼玉 / タナビケの3日間を終えて



タナビケ主宰で大学からの友人・山地拓くんが、中村力也さんにお声がけして開かれることになった同氏初の写真展  “NOTHING NEW”。その会場向かいの小屋でお茶を並べさせていただいた。


はじめての関東での販売は成功したと言ってよいだろう。


知らなかった町の知らなかった人たちの暮らしに、お茶という形でほんの少しだけ分け入る緊張、そして嬉しさ。


山地くんの存在なくしては何ひとつ出来なかった今回の埼玉滞在。出会った人々は、それぞれのきらめきを目に燃やしていた。


写真家 中村力也氏

岐阜のパン屋 円居(まどい)さん

中村氏の写真集 NOTHING NEW のなかで言葉を紡いだ 錦 多希子氏

ハンドクラフトアート 木凛 hikari tanaka氏

テクニカルショップ SILVER REST 野々下 智之氏


いつかの路上ですれ違ったかもしれないが、山地くんの力がなければその目を見ることがなかった人々だ。



数奇なことだ。今日すれ違ったあなたと、またいつかどこかで固い握手をすることになるかもしれない。そんな日がやって来るなら僕は嬉しい。たとえ今日のところは、すれ違っただけだとしても。


中村氏は展示を Nothing new と銘打った。「目新しいことではない」という彼の写真。


私たちには、その硬さを想像するほかない大地、曲がった先に何があるのかも知らぬ角、知らない稜線の上の青の空、旋律を知らない楽しげな唱歌、味を知らない食べかけの朝食。


かつて目新しかったあれこれを現在回想する彼の視点を借り、誰か(例えばあなた)との間に生まれるかもしれない関係 ”Something new” を “Nothing new” として見つめ直す。そんな日が待ち遠しくもある。一方でふと思えば、すでにそのような出来事がいくつも心にあることは、きっと幸福であるのに違いない。


例えば山地くんとの別れ際の抱擁だ。9年前、僕たちは大学を卒業した。大阪・梅田の飲み屋の前で、同じように抱擁して別れに涙を浮かべた。


今日もまた僕たちは同じやり方で、しかし9年前とは違う気持ちも抱き、別れた。



遡って、埼玉に向け出発する金曜の朝。樹から落ちたばかりの新鮮な赤い椿の花を、娘は僕に贈ってくれた。


やがて日曜夜。JR品川駅で鞄から取り出したそれはもう眩しい赤を失っていた。花はその代わりに、多幸感ある3日間を思い起こさせるには不足のない乾いた紫を帯びている。


失われた赤は、Nothing New になったのだろう。